国際学術誌に掲載された弊所の獣医学研究者(獣医師)の研究成果の一部をご紹介致します。研究課題は一貫したものであり、伴侶動物の周術期管理に関する研究ならびにオピオイドの基礎研究に従事しています。また、脳保護・脳蘇生に関する研究に着手していますが、これらの研究の成果は現段階において獣医学領域における伴侶動物の周術期管理のトピックスとして認識されていない領域であるため、この場での紹介は控える事とします。

©2019 Sendai Animal Care and Research Center
2016年に開催された欧州神経科学学会(The Federation of European Neuroscience Societies)にて、Young Investigator Training Programmeを受賞しました(写真左)。この学会会場では、2014年のノーベル医学生理学賞受賞者であるJohn O'Keefe先生の講義を受講する事ができました。また、南デンマーク大学分子医学研究所にてマイクロ外科手術の修練を行いました(写真右)。

Federation of European Neuroscience Societies

https://www.fens.org/

The Novel Prize in Physiology or Medicine 2014
John O'Keefe

https://www.nobelprize.org/prizes/medicine/2014/okeefe/biographical/

【研究成果】

伴侶動物の周術期管理に関連する獣医臨床研究ならびに基礎研究成果の一部(筆頭著者のみ)を掲載しています。


研究成果1.オピオイド・疼痛制御に関する研究
Sasaki K, Hall FS, Uhl GR, Sora I et al.
Specific regions display altered grey matter volume in μ opioid receptor knockout mice: MRI voxel-based morphometry.
British Journal of Pharmacology. 2015;172(2):654-667.


【概要】
伴侶動物の周術期管理に使用するμオピオイド受容体作動薬(モルヒネ、フェンタニル、レミフェンタニルなど)の作用機序に関連する研究です。μオピオイド受容体に焦点を当てた研究です。脳内疼痛関連部位とμオピオイド受容体の関係性について、MRI-Voxel based morphometry法を用いて検証を行いました。この研究から、μオピオイド受容体が欠損する事により、下行性疼痛抑制系の起始核である中脳中心灰白質(Periaqueductal gray: PAG)の体積が増加する事を明らかにしました。本研究成果は、侵害刺激やストレス刺激に対するPAGを介した下行性疼痛抑制系の賦活化に関する生体メカニズムの解明につながるものです。本研究は米国National Institute of Health (NIH)との共同研究の成果です。

研究成果2.オピオイド・疼痛制御に関する研究
Sasaki K, Hall FS, Uhl GR, Sora I.
Larger numbers of glial and neuronal cells in the periaqueductal gray matter of μ opioid receptor knockout mice.
Frontiers in Psychiatry. 2018;19(9):441.

【概要】

μオピオイド受容体欠損マウスの中脳中心灰白質(PAG)では一体何が起こっているのか?MRIで形態解析を行った結果を掘り下げる目的から、下行性疼痛抑制系の起始核であるPAGに焦点を当てた組織学的な検証を行いました。その結果、PAGではマイクログリアやアストロサイトなどのグリア細胞が増加している事が明らかになりました。神経障害性疼痛モデルなどでは脊髄後角におけるグリア細胞がその病態形成に深く関与している事が明らかにされています。しかし、脳においては、疼痛制御に関するグリア細胞の役割はまだ未解明な部分が数多く存在します。長期的な視点から、脳内疼痛関連部位に選択的に作用する鎮痛薬の開発を念頭においた研究です。


研究成果3.伴侶動物の周術期循環・呼吸管理と集中治療に関する研究
Sasaki K, Mutoh T, Mutoh T, Kawashima R, Tsubone H.
Electrical velocimetry for noninvasive haemodynamic monitoring in dogs undergoing cardiovascular surgery.
Veterinary Anaesthesia and Analgesia.2016;44(1):7-16.


【概要】

本研究は犬の輸液蘇生に関する研究です。重症例の輸液管理を安全に行うためにはどうすべきか?という事について検証する事が本研究のモチベーションです。輸液治療の指標としての動的指標の有用性については、人間を対象とした救急医学や集中治療の領域では大分昔から知られている概念であり、とりわけ珍しいものではありません。しかしながら、獣医学領域では動的指標についての概念は世界的にも十分に認識されていないのが現状です。本研究では、
1回拍出量変化(Stroke volume variation:SVV)に注目し、その術中輸液の指標としての可能性について検証しました。その結果、特定条件下において、SVVは重症動物(犬に限定)の輸液管理における客観的な指標の1つになり得るという結果を獣医学領域において世界に先駆けて導きました。これにより、医学における知見と同様の結果が犬でも得られた事になります(但し、上記した通り、動的指標の有用性は医学の成書に記載ありますので、本研究の成果は生物学的には何らインパクトのあるものではありません)。

本研究の成果は、
2015年の米国麻酔学会(American Society of Anesthesiologists 2015 Annual Meeting: ASA)で学会報告を行っています。


研究成果4.伴侶動物の周術期循環・呼吸管理と集中治療に関する研究

Sasaki K, Mutoh T, Mutoh T, Taki Y, Kawashima R.
Noninvasive stroke volume variation using electrical velocimetry for predicting fluid responsiveness in dogs undergoing cardiac surgery.
Veterinary Anaesthesia and Analgesia.2017;44(4):7-719-26.

【概要】
上記研究成果1の継続研究です。
1回拍出量変化(Stroke volume variation:SVV)に注目し、上記研究とは異なる全身状態の重症動物(犬)の輸液管理の指標としてのSVVの可能性について検証しました。本研究でも、研究成果1と同様に、SVVは特定条件下にて輸液治療の指標の1つになる事を明らかにしました。

研究成果5.伴侶動物の周術期循環・呼吸管理と集中治療に関する研究
Sasaki K, Mutoh T, Yamamoto S, Taki Y, Kawashima R.
Comparison of noninvasive dynamic indices of fluid responsiveness among different ventilation modes in dogs recovering from experimental cardiac surgery.
Medical Science Monitor. 2018;29(24):7736-41.


【概要】

上記研究成果1、2の継続研究です。
輸液投与の指標にはSVV以外にも様々な動的指標の有用性が報告されています。本研究ではSVV以外の動的指標であるPulse pressure variation (PPV)やSystolic pressure variation (SPV)にも着目し、蘇生時の輸液投与の指標としての可能性について犬を対象に検証を行いました。その結果、SVVと同様に、PPVやSPVも特定の人工呼吸器の設定条件下(A/CならびにSIMV)においては、重症例(犬)の輸液投与の指標の1つになる事を獣医学領域において世界に先駆けて証明しました(*但し、SIMVにおけるその条件設定については、今後のさらなる検証が必要です)。

研究成果6.伴侶動物の周術期循環・呼吸管理と集中治療に関する研究
Sasaki K, Mutoh T, Yamamoto S, Taki Y, Kawashima R.
Utility of electrical velocimetry-based noninvasive stroke volume variation in predicting fluid responsiveness under different ventilation modes in anaesthetized dogs.
Clinical and Experimental Pharmacology and Physiology. 2018;16(45):983-88.

【概要】

上記研究1、2、3の継続研究です。
研究3と同様に、Heart-lung interactionCyclic changeに着目し、SVVの有用性についての検証を行いました。これまでの研究成果1、2、3の総括に該当する研究です。結果として、人工呼吸器の設定がA/CならびにSIMVである条件下において、SVVが輸液投与の指標の1つになる事を獣医学領域において世界に先駆けて証明しました。*但し、SIMVにおけるその設定条件においては、今後のさらなる検証が必要です。

研究成果7.(獣医臨床研究)伴侶動物の循環モニタリングに関する研究
Sasaki K, Shiga T, Gomez de Segura IA.
Advantages of a novel device for arterial catheter securement in anesthetized dogs: A pilot randomized clinical trial.
Frontiers in Veterinary Science (Veterinary Surgery and Anesthesiology).2019;4(6):171.

【概要】

動脈圧波形のモニタリングは、重症動物の術中や蘇生時の循環管理において非常に有益です。しかし、伴侶動物を対象とした実臨床の現場では、動脈カテーテルの閉塞が生じ、動脈圧波形の連続モニタリングが妨げられる事を経験します。動脈圧波形のモニタリングを循環管理に活用している獣医師であれば、誰もが抱えるモニタリング上の課題です。そこで、本研究では成人用に開発された動脈カテーテル固定器具が犬の足背動脈にカニューレーションした動脈カテーテルの保持にも活用できるかどうかについて、弊所で開腹手術を受ける臨床例を対象に、前向きランダム化比較試験を実施しました。その結果、動脈カテーテル固定器具を使用した群では未使用群に比較し、動脈カテーテル設置期間のカテーテルフラッシュ回数や閉塞回数が減少する可能性が高い事が確認されました。本研究は弊所に限定された単施設臨床研究であるため、サンプル数に限界がありますが、より実践的な動脈圧波形モニタリングの実施に寄与する技術の発展に一役買う研究成果を得る事が出来たと考えられます。さらに、このような繊細なデバイス設計に係る技術は我が国ならではであり、世界に誇れるものです。派手では無くとも地に足をつけた地道な取り組みを行う事で、伴侶動物の周術期管理の安全性を向上する事に寄与する我が国発の斬新な切り口からの情報発信が可能です。

研究成果8.(症例報告)伴侶動物の心肺蘇生・集中治療に関する報告
Sasaki K, Mutoh T, Shiga T, Gomez de Segura IA.
Unsuccessful resuscitation with epinephrine in a dog with suspected severe perioperative anaphylaxis.
Veterinary Record Case Reoports.2017;5(1):e000440.


【概要】

周術期のアナフィラキシーに起因した非心原性肺水腫と循環呼吸障害に対する人工呼吸下でのエピネフリン投与、バソプレッシン投与、輸液投与に基づく心肺蘇生を行った治療報告です。エピネフリンに抵抗性を示した事に焦点を当てています。エピネフリン抵抗性の症例に対する心肺蘇生についての報告は獣医学領域では本報告が非定型例ではあるものの、世界初となります。本報告は単なる症例報告に過ぎませんが、伴侶動物の治療領域における心肺蘇生のガイドラインには記載されていない部分について着眼している事に注目して頂く必要性があります(但し、本症例報告のDiscussionにて引き合いに出した内容は、医学における米国心臓協会(American Heart Association: AHA)の
CPRガイドラインには記載がある成書レベルの話です)。本症例報告から、現時点における伴侶動物の蘇生と集中治療における様々な課題が浮き彫りとなりました。本症例の治療内容とその関連事項については、第97回日本獣医麻酔外科学会のパネルディスカッションにて講演を行っています。講演の抄録は日本獣医麻酔外科学雑誌 (Vol. 49, Supplement (2) 2018 December) P.109-110を参照して下さい。

研究成果9.(症例報告)伴侶動物の集中治療に関する報告
Sasaki K, Mutoh T, Shiga T, Gomez de Segura IA.
Successful intensive management in dogs with postoperative cutaneous drug hypersensitivity.
Veterinary Record Case Reoports.2018;6(2):e000613.


【概要】

周術期に発症した薬疹に起因する広範囲におよぶ体表皮膚の脱落が認められた症例(3例)の治療成績について紹介しています。医療現場における重度な熱傷患者に対する治療戦略と同様な手法により、3例の犬の救命を図りました。幸運にも、全ての症例の救命に成功しています。本症例報告は薬疹の病態解明に焦点を当てたものではなく、薬疹に起因し広範囲におよぶ体表皮膚の剥離に陥った症例の全身管理に着目した報告です。中毒性表皮壊死症 や
Stevens-Johnson 症候群 などの薬疹の病態解明や病理組織学的な視点からの症例報告は存在しますが、集中治療の視点からの全身管理に着眼した報告は獣医学領域においては本報告が世界初となります。

研究成果10.(獣医臨床研究)伴侶動物の循環モニタリングに関する研究
Sasaki K, Paredes GP, Shiga T.
Heparinized saline solution vs. saline solution (0.9% sodium chloride) for the maintenance of dorsal pedal arterial catheter patency in dogs undergoing general anesthesia: A pilot study.
Frontiers in Veterinary Science (Veterinary Emergency and Critical Care Medicine). 2020;28(7):428.

【概要】

周術期の観血的動脈圧と波形をモニタリングする際には動脈カテーテルの開通性を維持するために、ヘパリンを加えた生理食塩水を加圧バッグに充填し持続的に投与します。しかし、医学では、ヘパリンを加えた生理食塩水が動脈カテーテルの開通性維持に利点を有さないという認識が定着しつつあります。残念ながら、世界的にも獣医学領域では未だにこの点について検証はなされていません。そこで、本研究では、弊所で開腹手術を受ける臨床例を対象に、ヘパリンを加えた生理食塩水群と生理食塩水群でのカテーテル閉塞頻度について動脈圧波形の評価を基に、前向きランダム化比較研究を実施しました。本研究は単施設にて実施したパイロット試験であるため、確固たるエビデンスを構築するためには今後の多施設における研究成果に基づく最終評価が必要です。しかしながら、少なくとも2時間程度の短時間であれば、犬の足背動脈に動脈用カテーテルをカニューレションし、動脈圧波形のモニタリングを実施する過程においては、ヘパリンを加えた生理食塩水をフラッシュSolutionとして使用する事の利点は見当たらない可能性があるという予備的な結果を導きました。現段階において、犬ではヘパリンを加えた生理食塩水を使用した周術期の観血的動脈圧と波形のモニタリングに起因するHeparin-induced thrombocytopenia (HIT)や止血異常に関する公式な症例報告は存在しません。しかし、学術誌に報告が無いだけであり、ヘパリンに起因したHITや出血などの合併症の可能性を完全に否定する事はできません。また、ヘパリンを使用しなくとも観血的動脈圧と波形のモニタリングに支障が生じないのであれば、ヘパリンの費用削減につながり、モニタリングに要するコスト面からも臨床獣医師にとって利点があると考えられます。本研究で取り組んだ課題は医学では検証されていますので、生物学的には新たな知見はありません。しかし、獣医学領域では世界初の検証を行った事になります。即ち、本研究では、観血的動脈圧と波形のモニタリングが必要になるHigh risk手術を受ける伴侶動物の周術期管理の安全性を高める事に寄与する研究に着手し、その成果を世界に情報発信しました。本研究には、フランスのToulouse大学獣医麻酔科の若手獣医師に参加頂き、我が国の学際領域からアプローチする伴侶動物の全身管理についての実臨床や獣医臨床研究手法について体感して頂きました。この度の経験が今後の彼のECVAAレジデント生活の糧となる事を期待します。次回の弊所で実施する獣医臨床研究にもこのフランスの若手獣医師に参加して頂く予定です。


研究成果11. (獣医臨床研究)伴侶動物の周術期循環・呼吸管理と集中治療に関する研究 
Sasaki K, Yamamoto S, Mutoh T.
Noninvasive assessment of fluid responsiveness for emergency abdominal surgery in dogs with pulmonary hypertension: Insights into high-risk companion animal anesthesia.

PLOS ONE.2020;15(10):e0241234.

【概要】

弊所の診療体制は既存のそれとは異なるものの、日常的に僧帽弁疾患を患う子宮蓄膿症や胆嚢破裂などの症例に遭遇する機会があります。多くの場合が、生命の危険に晒された状態での来院となり、残念ながら救命できない事もあります。このような重症例の救命活動には、「どのような術中輸液蘇生を実施する事が命の危険に晒される病気を患う事になってしまった不遇な伴侶動物の救命率を上げる事に寄与するのか?」という課題が存在します。伴侶動物の救命の成否は、伴侶動物と生活を共にしている飼い主である「人間の幸せ(福祉)」にも大きな影響を与えてしまう事もあります。重症化した伴侶動物の予後は獣医師の戦略的な術中輸液蘇生の有無に関わらず、決まってしまうのかもしれません。しかし、それでは伴侶動物を対象とする獣医学領域における周術期管理の進歩がありません。我々は、様々な制約がある中で常にこの部分にこだわりを持ち、既存の獣医学領域の周術期管理に関する臨床や研究の着眼点とは異なる視点からの挑戦を試みて来ました。本研究では、
1回拍出量変化(Stroke volume variation)に着目し、伴侶動物の治療現場におけるHigh risk手術麻酔の今後の可能性について洞察を行いました。PLOS ONEはオープン・アクセス誌ですので、どなたでも無料で論文をダウンロードできます。本論文は米国心臓協会のFellowであるDr. Vincenzo Lionetti, MD, PhDがEditorとして評価下さりました。ご興味がある方は、以下からアクセスして下さい。 https://doi.org/10.1371/journal.pone.024123

研究成果12.(獣医臨床に役立つ基礎研究)疼痛・鎮痛薬に関する研究
Sasaki K, Ishikawa T, Ikeda K, Kasai S.
Antinociceptive effect of the combined use of butorphanol and buprenorphine in mice.
Neuropsychopharmacology Reports. 2021;41(4):522-525.


【概要】

伴侶動物の治療のみならず、広く獣医学領域ではブトルファノールやブプレノルフィンが使用されます。Key Wordは、「部分作動薬」(そもそも、その道の専門家の見解では部分作動薬とは具体的に何を意味するのか定かでは無いとの意見もあります)。獣医学の成書やメディア媒体ではブトルファノールとブプレノルフィンの併用は「鎮痛効果を相殺する」という記載が散見されます。長い間、この事に疑問を抱き続けてきました。その「解説」の根拠は一体どこからきているのだろうか。本研究はそのような疑問を解消する目的から、オピオイド研究の専門家である公益財団法人東京都医学総合研究所の池田和隆先生と笠井慎也先生のお力をお借りし、検証を行いました。C57BL/6JJcL系統のマウスを用いてTail Flick 試験ならびにHot Plate試験を実施したところ、ブトルファノールとブプレノルフィンを1)同時に投与した群 、2)ブトルファノール投与後にブプレノルフィンを投与した群、そして3)ブプレノルフィン投与後にブトルファノールを投与した群のいずれの群においても、鎮痛効果は相殺されない事が明らかになりました。

本研究結果は、侵襲に見合う鎮痛薬を使用できない状況がある場合(理想としては、そのような状況が無くなれば良いのですが)、伴侶動物のみならず、実験動物の苦痛緩和に貢献する知見となる可能性があります(もちろん、本研究の結果のみから、いわゆる「部分作動薬」どうしを併用した際の鎮痛効果に関する全容が明らかにされたわけではありませんので、その背景となる機序を分子や細胞レベルで明らかにする必要性があります)。医療では、ブトルファノールを臨床の場にて使用する事は極めて稀です。この為、本研究課題は獣医学領域独特の着眼点であり、疼痛学分野における関心度(サイエンティフィック・インタレスト)は決して高くはありません。そのような課題ではありましたが、広く動物の福祉に貢献する可能性がある未解明事項を明らかにする研究課題にお力添え頂きました池田和隆先生と笠井慎也先生に改めまして深謝致します。

詳細については以下からアクセス可能です。我々の領域では、まだまだ「逸話」を基にした情報発信や議論展開が散見され、孫引きの状況が継続しています。まだまだ検証すべき事項が山積みです。
https://doi.org/10.1002/npr2.12202

研究成果13.(症例報告)伴侶動物の麻酔関連偶発症例
Sasaki K, Rabozzi R, Kasai S, Ikeda K, Ishikawa T.
Fentanyl-induced muscle rigidity in a dog during weaning from mechanical ventilation after emergency abdominal surgery: A case report.
Veterinary Medicine and Science. 2023;9(1):37-42.

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【概要】

伴侶動物である犬の周術期管理に使用したフェンタニル(μオピオイド受容体作動薬)に起因した筋強直(muscle rigidity)を経験したため、その治療経過等を学術誌に紹介しました。ヒトではオピオイドが関与した筋強直は良く知られており、関連する症例報告や臨床研究も行われています。しかし、ヒト以外の動物種では、非臨床研究の場にてラットやウサギを用いたそのメカニズム解明に係る研究は行われているものの、救命を目的とした周術期管理中の犬における報告は現段階では本報告のみとなります。症例報告は過去に無い稀な例の提示が重要であるという考え方があるようですが(学術誌における症例報告の受理基準として)、我々はそのヒヤリとした経験を世界に情報発信する事で、伴侶動物の周術期管理に情熱を捧げる同胞である獣医師にその経験を共有する事を目的としています。症例報告は単にその症例に限定的な現象を報告しているに過ぎず、確固たる科学的な妥当性を担保するものではありません。しかし、
本症例報告では、1)日頃の伴侶動物の周術期管理において経験する事象が自然発生性のヒトの病態モデルとしても理解する事ができる事(伴侶動物診療施設で経験する事象がトランスレーショナル研究への架け橋となる可能性がある事)、2)伴侶動物の周術期管理中に我々と同様の状況に陥った際のとっさの対処法に係る予備知識を共有頂く事の重要性を読者の皆様にお伝えしています。Supporting Informationに動画、ならびに関連するTablesを提示していますので参照して下さい。
*論文の本文では、自動麻酔記録paperChartを開発された今は亡き越川正嗣先生についてご紹介させて頂きました。知的な世界ですね。

研究業績